第4章 アレックスとのセックス
オーロラ・ロス の視点
激しい口づけのまま寝室へ連れ込まれ、服はもう半分以上、裂かれていた。冷たい空気が肌を撫でた瞬間だけ、理性がかろうじて戻る。
ベルトを緩めながら近づいてくるアレックスを見て、私は反射的に身を引いた。
正直、アレックスは格好いい。間違いなく。体つきだって、街のどんな男モデルより整っている。
――それでも怖かった。
私は、まだ処女だ。
あれほど憎しみを隠さない彼が、今夜ベッドの上で私を壊してもおかしくない。そんな考えが頭をよぎって、喉がひゅっと鳴った。
「何を考えてる」
ベッド脇の男が私の足首を掴み、乱暴に引き戻す。背中が沈んで、視界がぐらりと揺れた。
首筋へ顔を埋められ、ぬるい舌が肌を這う。耳元に落ちてくる声は、低く、甘く、いやらしい。
「このあと、俺に抱かれたらどんな感じか……想像してたか?」
囁きだけで体が熱を帯びる。舐められた場所が痺れるみたいで、思わず息が漏れた。
アレックスが喉の奥で笑う。
最後の下着を引き裂き、胸へ口づけた。もう片方の手が下腹を撫で、脚の間へ滑り込む。秘部を強く揉まれ、敏感なところを執拗に弄られる。濡れていくのが分かって、恥ずかしさに息が詰まった。
肩に縋りつく。鼻先を満たすのは彼の匂いと、男の熱。
熱に焼かれて、一瞬だけ意識が遠のく。
――七年前みたいだ。
あの頃も私は、いつも彼の腕の中にいた。
けれど、碧い瞳の冷えた光を見た瞬間、甘い錯覚は霧散した。
アレックスは私を憎んでいる。
その事実が胸を締めつけ、耐えきれず目を閉じる。見たくなかった。あの目を。
彼の呼吸が重くなる。顎を掴まれ、少し強く持ち上げられ、無理やり瞼を開かされた。
「見ろ」
「誰に抱かれてるか、はっきりさせろ」
熱いものが入口に触れ、心臓が跳ねる。私は視線を落として、瞬時に息を呑んだ。
「待って、アレックス!」
あまりにも大きい。紫がかった熱を帯びたそれが、狰猛に脈打っている。
――こんなの、入ったら傷つく。絶対に。
でも彼は私を押さえつけ、容赦なく突き入れた。速く、荒く、優しさはない。
一瞬で押し広げられ、裂けるような痛みが走る。私は叫び、首に回した腕に力が入った。
「痛い……!」
爪が彼の肌を掻く。涙が滲む。生理的な痛みで視界が滲んだ。
わざと嬲るのだと思った。娼婦にするみたいに。
けれど――彼は止まった。私が慣れる時間をくれた。
息を整えながら見上げると、薄暗い灯りに照らされたアレックスの顔は、ひどく整っているのに影を落としていた。覗き込む視線は複雑で、意味が読めない。
考える暇はなかった。
体が少しずつ馴染み始めた途端、彼は腰を強く打ちつけ、指先で乳首を摘み上げる。激しく、熱く、終わりがないみたいに。
どこで終わったのかも分からないまま、私は意識を手放した。
……
目が覚めたのは翌朝。
体中が痛い。肌には噛まれた痕がいくつも残っていて、歯形がくっきり浮いている場所さえあった。
昨夜の狂気を思い出し、頬がじわりと熱くなる。初めてのことばかりで、恥ずかしさが遅れて押し寄せた。
シーツを掴んで起き上がり、ベッドを出ようとした時、扉が開く。
入ってきたアレックスは、もう冷淡で端正な男に戻っていた。暗紅色のスーツ。落ち着いた貴族みたいな気配で、昨夜の獣性が嘘のようだ。
袖口を整えながら、淡々とこちらを見る。
「どこへ行く。昨夜ほとんど寝てないだろ。もう少し寝ろ」
昨夜の話をされ、私は視線を逸らした。
「いい。用事があるの」
半分は本当だ。会社には仕事が山積みで、助手は焦っているはず。
残り半分――彼が目を細めた。私の本音を探るように。
「俺といるのが、そんなに屈辱か?」
屈辱、と言い切れない。
ただ、取引のためだけの行為は心が追いつかない。
しかも相手がアレックスだなんて。
私は首を振った。
「そんなふうに思ってない」
信じていない顔で、彼が近づく。
影が落ち、私はまたベッドへ押し戻された。熟知した匂いが襲い、拒む余地が消える。
まだ痛むのに――また、するつもり?
私は必死に身を捩ったが、簡単に封じられる。耳が熱くなっていくのが分かって、情けなくなる。
「お前の言葉は信用できない。オーロラ」
ファスナーが下ろされ、脚を易々と開かされる。
硬くなったものが再び触れた。
昨夜の痛みとは違う。火照った場所がじりじりして、快感が電流みたいに背骨を駆け上がり、頭が白くなる。
淑女の作法も、令嬢の振る舞いも――全部、彼に粉々にされる。
鏡の前へ抱き上げられ、彼のものがどう入っていくのか見せつけられる。
鏡の中のアレックスは精悍で、汗で小麦色の肌が艶めいていた。
私は人形みたいに姿勢を変えられ、主導権など欠片もない。
羞恥で震え、目を閉じるしかなかった。
*三人称
フィリップス・グループ本社ビルの前。
鮮やかな赤のポルシェが止まり、運転手がドアを開ける。最新のオーダードレスを着たクレアが、ゆっくり降りた。サングラスを外すと、陽にきらめく金髪と、整った顔立ちが現れる。
「誰だ?」
「新入社員か。フォスター・グループの令嬢だよ。クレア。社長に会いに来た」
「社長と関係深いのか?」
「深いも何も。社長が落ちぶれてた頃、フォスター家のお嬢様が投資して救ったんだ。あの人がいなきゃ今の社長はない」
「だから社長も、フォスターを全力で支えて恩返ししてる。百倍千倍って勢いでな」
「互いに救われたってやつか。お似合いだな……」
クレアは社長専用エレベーターに乗り、秘書のジェイコブは応接室で待っていた。
「フォスター嬢」
「アレックスに電話したのに出ないから来たの。彼は?」
「まだ出社しておりません」
クレアが眉を寄せる。
「川の苑にいるのよね。見に行こうかしら」
ジェイコブが慌てて止めた。
「フォスター嬢、ご存じでしょう。あの邸宅へ他人が近づくのを、彼は嫌います」
不満そうにしつつも、クレアは引き下がった。
川の苑への執着は異常だ。以前、見学したいと頼んだ時も、いつもは聞く男が、珍しく即座に拒絶した。
あの冷たい目は、今思い出しても背筋が冷える。
「アレックスが来たら連絡して」
「かしこまりました」
窓の外で太陽は高い。
休日でも会社に籠る仕事人間のアレックスが、正午を過ぎても現れない。
信じられない、とクレアは思った。
