第173章 尻に敷かれる

安検を抜けた、その瞬間。夏川懐斗は首から下げたペンダントを、ぎゅっと握りしめた。

それは夏川紅蓮のものだった。

家を出る前、彼女が手渡してきた。

意味は分かっている。

――ナナがくれた、最後のチャンスだ。

今度こそ、もう迷わない。

夏川紅蓮は、懐斗の背中が人波に消えるまで見送っていた。表情は、ひどく複雑だ。

隣には諏訪淳行。彼もまた、見送りに同行していた。

淳行は部下を二人つけ、懐斗と一緒に島へ行かせている。

紅蓮の顔色を横目で窺い、淳行が口を開いた。

「つらいなら、惜しいなら、今すぐ呼び戻す」

懐斗がいなくても、代わりは選べる。大任を担える駒など、いくらでもいる。

...

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