第20章 黒白転倒

夏川懐斗は夏川家の五男で、兄弟の中でもいちばん瑠璃を甘やかしてきた男だ。

だからこそ、夏川瑠璃にとっても懐斗との関係は特別だった。

――けれど今、この瞬間だけは違う。

怖い。

懐斗は短気で荒っぽい。いちばん嫌うのは裏切りで、しかも武術を学んでいて腕っぷしも立つ。

もし自分が進んで夏川家と縁を切ったと知れたら、あの沸点の低さだ。殴られてもおかしくない。

……待って。今ここにいるのって、もしかして、それ?

瑠璃は反射的に逃げようとした。

だが恐怖で膝が笑い、足がふにゃりと力を失う。走っているつもりなのに、歩くのと大差がない。

動け、動けってば……!

苛立ちと情けなさが一緒くた...

ログインして続きを読む