第2章
半月が過ぎた。
神谷家の別荘には絶望的な空気が漂っていた。リビングのテーブルの上には印刷された捜索願のチラシが山積みになり、壁には豪の写真が貼られ、テレビでは今なお行方不明児童を探すニュースが流れている。
神谷おじさんはすっかり痩せこけ、目の周りは深く窪み、髭も伸び放題だった。神谷おばさんはさらにやつれ果て、白髪もずいぶん増え、毎日泣いてばかりいた。
そして私は、彼らにとって唯一の慰めとなっていた。
「由帆ちゃん、今日もおばさんのところに来てくれたの？」
ドアを開けて入ってきた私に、神谷おばさんはかろうじて笑みを絞り出した。
「うん、お母さんが作ったお菓子を持ってきたの」
私は行儀よく保温容器を彼女に手渡した。
「おばさん、ちゃんとご飯を食べなきゃだめだよ。豪お兄ちゃんが帰ってきたとき、こんなに痩せてたら心配するよ」
神谷おばさんは豪の名前を聞くと、また涙をこぼした。
「由帆ちゃん、もし豪が永遠に帰ってこなかったらどうしよう……」
私は無邪気なふりをして彼女を慰めた。
「おばさん、そんなこと言わないで。豪お兄ちゃんはきっと帰ってくるよ」
それからわざと一瞬言葉を切り、彼女が私を見るのを待った。
「でも……」
「でも、なんだい？」
神谷おじさんもソファから立ち上がり、切迫した様子で尋ねた。
「もしかしたら、少し外に出てみたほうがいいかもしれない。ずっと家で待っているだけじゃ……」
私は無垢な大きな瞳を瞬かせた。
「学校の門の前でチラシをもらったの。練習生を育てる学校のことで、そこには豪お兄ちゃんくらいの年の子たちがたくさん、一生懸命レッスンしてるんだって」
神谷おばさんは涙を拭った。
「由帆ちゃんの言う通りね。いつまでもこうして落ち込んではいられないわ」
「おじさん、おばさん、ここには夢を追いかけて頑張っている子がたくさんいるの。その子たちを見ていたら、少しは気持ちが晴れるかもしれないよ」
私はそのチラシを取り出した。そこには、私がこっそり拡大しておいた椿野武の写真が載っていた。
時間は完璧に計算してある。今日は水曜の午後二時。事前に調べた情報によれば、椿野武はこの時間、ダンススタジオで練習しているはずだ。
東京芸能養成学校は渋谷区にあり、練習生の育成機関としてはかなり有名だ。神谷おじさんの運転で、私たちはそこへ向かった。
「ご見学ですか」
私たちを出迎えたのは若い女性の先生だった。
「お子様の入学をご検討で？」
「いえ、子供たちが練習している様子を少し見せていただきたいだけです」
神谷おじさんはそう説明した。
私は神谷おばさんの手を引き、わざと三階のダンススタジオへ向かった。ガラス窓越しに、中で練習している生徒たちの姿がはっきりと見える。
「あの子……」
神谷おばさんが突然足を止め、体を震わせ始めた。
その視線を追うと、ダンススタジオの中で練習している椿野武がいた。八歳の彼は小柄で、顔立ちは整っており、特にその瞳は、豪と瓜二つだった。
「どうしてあんなに豪と似ているの？」
神谷おばさんの声は震えていた。
神谷おじさんも衝撃を受けていた。
「そっくりだ……由帆、あの子が誰か知っているのか？」
私は驚いたふりをして目を見開いた。
「え？ 本当によく似てるね！ 聞いてみようか？」
実のところ、私はとっくに椿野武の全資料を調査済みだった。彼は幼い頃から孤児院で育ち、優秀な成績が認められ、養成学校に特待生として選ばれた。性格は温和で、礼儀正しく、何よりも重要なのは――身寄りが一人もいないこと。
完璧な身代わりの候補者だ。
私たちは彼の練習が終わるのを待ち、私が率先して駆け寄り話しかけた。
「お兄さん、お名前はなんていうの？ 私の友達にすっごく似てるんだ」
椿野武は足を止め、丁寧にお辞儀をした。
「椿野武です。はじめまして、よろしくお願いします」
声まで少し似ている！ 神谷おばさんは泣き出しそうになっていた。
「坊や、あなた、今年いくつ？ ご家族は？」
彼女は興奮して尋ねた。
武は落ち着いて答えた。
「八歳です。小さい頃から孤児院で育って、今もそこで暮らしています」
「孤児院……」
神谷おじさんの目に複雑な感情がよぎった。
「坊や……よかったら、うちへ食事に来ないかい？」
武は少し戸惑っていたが、それでも頷いた。
夜、神谷家の食卓で、武は非常に品行方正に振る舞った。自分から進んで料理を運び、食事中はよく噛んでゆっくりと食べ、話し方は穏やかで上品。まさに完璧な良い子の鑑だった。
神谷おじさんとおばさんは見れば見るほど彼を気に入り、ほとんど豪の身代わりとして扱っていた。
「武君、もしよかったら、いつでもうちに食事に来てちょうだい」
神谷おばさんは目に涙を浮かべて言った。「私たちは……あなたのことが、とても気に入ったの」
食後、私は自分から武を神谷家の庭に案内すると申し出た。
夜の庭園では、街灯が柔らかな光を投げかけている。私と武は石畳の小道を歩き、遠くには東京の街の灯りが見えた。
私たちは庭園の中央にある小さな東屋で足を止めた。
「どうして僕を助けるの？ あまりに突然すぎる……」
武は訝しげに私を見つめた。
二人ともまだ八歳だが、彼の眼差しには年齢を超えた成熟があった。孤児院での生活が、彼を普通の子よりも早く大人にさせたのかもしれない。
私は謎めいた笑みを浮かべた。
「あなたに、私が必要なものがあるから――その顔が」
「どういう意味？」
「神谷家は息子を一人失った。彼らには、もっと優秀な代用品が必要なの。あなたはその完璧な息子になってみない？」
武は長い間黙っていたが、やがて口を開いた。
「引き換えに、僕に何をしろと？」
「簡単よ。私の指示に従って、神谷豪よりも完璧な存在になるの。十年後、あなたは今日の決断に感謝することになるわ」
月光の下、八歳の武はことさら真剣に見えた。彼は深く私を見つめる。同じ歳なのに、私の瞳に何か尋常ではないものを見たようだった。
「わかった」
彼は頷いた。
「血の繋がりより大切なものがあるって、証明してみせる」
「それじゃあ、今日からあなたは神谷武よ」
私は小さな手を差し出した。
「よろしくね」
彼は私の手を握った。
「よろしく」
こうして、私の最初の駒は盤上に置かれた。
一ヶ月後、神谷家は正式に椿野武を養子にし、名を神谷武と改めた。法的な手続きはすべて順調に進んだ。子供を失った富豪の家庭が孤児を養子に迎えるという善行を、断る者など誰もいなかったからだ。
神谷家のバルコニーに立ち、遠くの夜景を眺めながら、私の心は大きな満足感で満たされていった。
豪、あなたが帰ってきたとき、誰かがあなたのすべてを完璧に代替してしまったことに気づくでしょう。そしてその人物は、あなたが永遠に超えられない存在となる。
これからの十年、私はこの手で椿野武を神谷家で最も完璧な息子に、最も優秀な後継者に、最も輝くスターに作り上げてみせる。
そしてあなた、神谷豪は、汚い山村で、腐っていくだけ。
