第80章

夕暮れどき。いちばん客が入る時間帯だというのに、「the moon」バーの店内は、嘘みたいに空っぽだった。

いちばん奥の酒棚の前にもバーテンダーの姿はない。そこにいるのは鈴原明志ただ一人。白酒のボトルを握りしめ、喉の奥へ流し込むようにあおっている。隣のテーブルには、名の知れた銘柄の空き瓶が何十本も転がっていた。

やがて手元の一本も空になる。

鈴原明志はふらつきながら立ち上がり、酒棚を開けて今度は赤ワインを一本引っ張り出した。

――その瞬間、動きが止まる。

ラベルの名前に、視線が釘づけになった。

「the moon」

数年前、海外のワイナリーと組んで作った銘柄だ。あの頃の自分は、...

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