第3章

私は鴨居に寄りかかり、番茶の入った茶碗を片手に、言葉を話せぬ生き物の病を十年も診断してきた、その訓練された目で松本千恵の演技を見つめていた。

松本千恵の肌は、積極的な化学療法を受けている患者に現れるはずの土気色とは裏腹に、健康的な血色をしていた。

そして何より雄弁だったのは、屈強なアスリートも顔負けの食欲で、朝食の焼き魚にがつがつと食らいついている、その姿だった。

「千恵さん」

私はことさら慎重に、茶碗を置きながら言った。

「今受けていらっしゃる治療は、どこのがん専門医の処方なんですの? 副作用について、少し調べておきたいと思いまして」

彼女は、ものを咀嚼する途中でぴた...

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