第1章

美奈子視点

はっとして目が覚めた。心臓が激しく鼓動していて、このまま心臓が止まってしまうんじゃないかと思った。『一体、何が起こったの?』

見上げた天井は、四年間見慣れたものだった。隣の枕からは、まだ大志のコロンの香りがする。私は喉元を掴んだ。そこにあるはずの血を、痛みを、全てが停止していくあの感覚を探して。

何もない。ただ、狂ったように脈打つ鼓動と、汗でぐっしょり濡れたナイトガウンがあるだけ。

鏡へ向かおうとして、ベッドから転がり落ちるようにした。そこに映った自分の姿を見て、私はただ立ち尽くした。顔は青ざめ、ひどい有様だったけれど、私はここにいる。息をしている。両手はひどく震えていて、自分の顔に触れることさえままならなかったが、いざ触れてみると、全てが本物だと感じられた。

その時、ナイトスタンドの上のスマートフォンが目に入り、それを掴んだ。画面に表示された日付に、血の気が引いた。

その日は、大志が妻を二人欲しいと言い出した日。そして、私の人生で最悪の時期が始まった日でもあった。

足から力が抜け、私はその場に崩れ落ちた。スマートフォンが隣でカタリと音を立てたが、慌てて拾い上げる。『恵美。ああ、恵美』

震える指で画面をタップし、妹である恵美の番号にかける。三回コールが鳴った後、彼女は電話に出た。

「もしもし?」彼女の声はあまりに普通で、あまりに生きていて、私はその場で泣き出しそうになった。

「恵美?私よ」

「お姉さん?どうしたの?今、何時だと思ってるの?大丈夫?」

今にも涙があふれそうで、私は手で口を覆った。彼女は生きている。本当に生きていて、無事で、自分に何が起ころうとしていたのか――ううん、何が起こったのか、何も知らないでいる。「ただ、あなたの声が聞きたかったの。体調は大丈夫?」

「うん、平気だよ。なんか、ちょっと怖いんだけど。一体どうしたの?」

「何でもないの、ごめんね。また後で電話するから。……愛しているよ」

「恥ずかしいから止めて……もう、私も愛している……」

電話が切れると、私は冷たいフローリングに座り込んだまま、ただ泣いた。どれくらい泣き続けたのかも分からない。悲しみ、安堵、そして起こったこと全てに対する、起こるはずだったこと全てに対する、込み上げる怒り。あらゆる感情が堰を切ったように溢れ出した。

血の海に横たわる恵美の姿が、何度も何度も脳裏をよぎり、それを止めることができなかった。

『私が馬鹿で、離れなかったから彼女は死んだ。私が留まって、美香に全てを壊させてしまったから』

どんなに振り払おうとしても、記憶は次から次へと蘇ってくる。

五年前、私は交通事故から大志を救った。病院で目覚めた彼は、私のことを初恋の相手である美香だと思い込んだ。誰もがその話を知っていた。大手企業のCEOが、祖母によって引き離された女性の代わりを見つけたと。

恵美は心臓手術を必要としていた。私には2500万円が必要だった。大志は契約書を携えて現れた。恵美の医療費と引き換えに、三年間、彼の相手役を務めるという契約を。他に選択肢などなかった私は、それにサインした。

その三年間で全てが変わった。彼は私を守り、気遣い、恵美に何かあれば全国どこへでも連れて行ってくれた。そしてある夜、ナイフを持った男が私を狙った時、大志は刃の前に身を投げ出した。シャツに血が滲んでいくのを見ながら、彼が崩れ落ちる姿を目の当たりにして、私は自分が彼に恋をしていたのだと気づいた。

三年目の記念日に、彼はプロポーズしてくれた。「君が美香の代わりとして僕の人生に現れたことは分かっている」彼は私の両手を取りながら言った。「でも、もう彼女を愛してはいない。僕が愛しているのは君だ。君だけなんだ」

私はためらった。初恋の人を、本当に愛するのをやめられるものだろうか?でも、彼は祖母の話をしてくれた。母親が亡くなった後、彼女に育てられたこと、父親はいつも不在だったこと。祖母に美香と別れるよう強制され、彼女には何もかも借りがあるからと、その願いを受け入れたこと。

「僕の人生のその部分はもう終わったんだ」彼は約束してくれた。「君が、僕の未来だ」

私は彼を信じた。私たちは結婚し、一年と二ヶ月の間、私はこれ以上ないほど幸せだった。

しかし、結婚からちょうど一年と二ヶ月後、全てが崩壊した。

その日、大志は慈善晩餐会から美香を連れて帰り、古い友人だと紹介した。そしてその夜、彼はベッドに来なかった。三ヶ月後、彼は私たち二人をリビングに集め、決断を告げた。

私たち二人とも手元に置きたい、と。黒木家には二人の妻を養うだけの十分な財力があると。私が結婚の誓いを、私だけだと約束したじゃないかと彼に思い出させると、彼はただ苛立ったような顔をして、二人とも愛していると言った。まるでそれで全てが解決するかのように。

そして彼は、私の指輪を要求した。彼がプロポーズしてくれた、ピンクダイヤモンドの指輪を。震える私の手からそれを抜き取り、美香のもとへ歩み寄り、彼女の指にはめるのを、私はただ見ていた。

その後の数ヶ月は悪夢だった。彼は客人の前で私を土下座させ、やってもいないことで美香に謝罪させ、私が反論すると平手打ちを食らわせた。

しかし、最悪の出来事は、彼が私に同行しろと言い張ったあの買い物中に起こった。ナイフを持った男が美香に襲いかかった時、大志は彼女を守るために男を突き飛ばし、その男を私の真正面に押しやった。何が起こったのかを理解する前に、刃が私の腹部を切り裂いた。血があちこちに飛び散る。今まで感じたことのないような痛み。

病院で、私は妊娠していたと告げられた。赤ん坊は、もういない。大志が現れた時、彼は謝らなかった。私がわざとナイフの前に身を投げ出し、自分の子供を使って美香を陥れようとしたたのだと非難した。私が帰宅して二時間後、彼の警備員たちが私を地下室に引きずり込み、閉じ込めた。三日間、食べ物も水もなく、ただ暗闇だけがあった。

だが、それでも終わりではなかった。

美香は恵美を「女子会」に誘った。ただの射撃練習だと言って。射撃場からすぐに来てほしいと電話があった時、私はあらゆる速度制限を無視してそこへ向かった。私が見たのは、胸から血を広げ、目を開いたまま何も見ていない状態で地面に横たわる恵美の姿だった。

美香は警察に、銃が暴発した事故だと話していた。私が彼女が妹を殺したのだと叫び、恵美の遺体に駆け寄ろうとした時、警備員たちが私を抑えつけた。悲しみが胸を締め付け、息もできなかった。鼻から、口から、血が滴り落ちる。

全てが闇に包まれる前に最後に見たのは、美香の顔だった。

彼女は、微笑んでいた。

美香の微笑みは、私が死ぬ前に見た最後の光景だった。そして今、それは私を現実に引き戻す悪夢となっている。私は今、寝室に立っていた。爪が手のひらに食い込むほど、固く拳を握りしめて。

私は生きている。そして、全てを変えるチャンスがある。

大志が簡単に私を解放してくれるとは思えない。彼の権力はあまりにも大きく、私が彼に立ち向かう術はない。唯一の逃げ道は、彼に私と妹が二人とも死んだと思わせることだ。計画が必要だった。

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