第9章

北欧の街は淡い冬の日差しの下で輝き、降りたての雪に覆われた通りはどこまでも清らかだった。大志が黒塗りの車から降りると、秘書が心配そうな表情で後を追った。

「黒木様、会議の前に少しお休みいただいた方がよろしいかと。フライト中もほとんどお休みになっていないじゃないですか」

大志は彼を無視し、寒さにコートの襟を立てた。三ヶ月。美香の嘘の真相を知ってから三ヶ月。自分を心から愛してくれた唯一の女性に、何をしたかと気づいてから三ヶ月。眠れぬ夜が、三ヶ月も続いていた。

「ホテルまで歩いて戻る」と、大志は唐突に言った。「頭を冷やしたい」

秘書は何か言い返そうと口を開きかけたが、すぐに閉ざ...

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