以下の残高

エリオット

冥界がこれほど生き生きとしているのを見たのは、初めてかもしれない。

俺は焼きたてのパン、果物、そしてコーヒーを載せたトレイを両手で慎重に運ぶ。そう、冥界の支配者だってカフェインは嗜むし、こうして廊下に出ることだってあるのだ。宮殿の空気が……違う。黒曜石のように暗く輝く壁はそのままだが、今では星明かりのように柔らかな光の筋が石の中を走っている。空気がエネルギーを帯びて唸っている。だが、かつて肌を刺すようだった鋭く重苦しいものではなく、温かく安定したものだ。呼吸をするたびに安らぎを感じ、足取りも軽い。

メイシーと俺が「楔」を壊した時、「帳(とばり)」は沈黙すると思っていた...

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