第八章
セフィ
それからしばらくして、私は眠りに落ちた。だが、それは決して安らかな眠りではなく、パニックに満ちた悪夢に囚われる時間だった。夢の中で、私は昨夜の出来事を追体験していた。アンソニーに必死で抵抗し、彼から逃れようともがく。肺から空気が絞り出され、命がゆっくりと指の間から滑り落ちていくような感覚が蘇る。夢の中では声が出なかった。レストランの奥の部屋に視線を向けるが、誰も助けに来てはくれない。そこにあるのは闇だけ。静寂だけ。その闇は目の前のアンソニーさえも飲み込み、私はたった一人、呼吸もできず、身動きも取れないまま取り残された。どこからそんな力や息が湧いてきたのか分からないけれど、私は叫んだ。力の限り、叫び声を上げた。
目を覚まし、それが夢だと悟った瞬間、寝室のドアが勢いよく開け放たれた。二人の男が部屋になだれ込み、私のベッドへと駆け寄ってくる。まだ完全に覚醒しておらず、状況も飲み込めないまま、私は再び悲鳴を上げた。一人の男が私に近づき、もう一人は部屋の残りの部分を確認していた。
どこか懐かしい香りが鼻をくすぐり、腕に温かな感触を感じると同時に、隣でベッドが沈み込んだ。
「シッ……悪夢を見ていたんだな。もう大丈夫だ。二度と君に手出しはさせない」アドリックはそう言うと、私を両腕で包み込み、引き寄せた。
「アドリック？」
「ああ、ソルニシコ。大丈夫だ。ただの悪夢だよ、現実じゃない。もう大丈夫だから」
彼の逞しい胸に寄りかかると、溢れ出す感情を抑えることができなかった。私はその胸に顔を埋め、泣きじゃくった。
「全部吐き出してしまえばいい。ここ数日、大変だっただろう。でも、もう大丈夫だ。俺が約束する」彼はそう言いながら、悪夢で張り詰めた私の神経を鎮めるように、ゆっくりと背中をさすってくれた。「夢の内容を、話したいか？」
私は深く息を吸い込み、顔をぬぐった。目を閉じたまま後ろによりかかり、もう一度あの恐怖と向き合う勇気を振り絞ろうとする。彼が答えを待つ間、親指で私の目から零れた涙を優しく拭ってくれた。目を開けると、心配に満ちた彼の深い青色の瞳が、真剣に私を見つめていた。私は言葉も出ず、ただその瞳を数瞬見つめ返した。出会ってから二十四時間も経っていないのに、なぜ昔から知っているような気がするのだろう？ なぜ彼の腕の中だと、こんなにも安心できるのだろう？
私が答えずにいると、彼は微笑みを浮かべ、優しく私の顔にかかった髪を払いのけた。「君は、泣き顔でさえ美しいんだな」
私は頬を染め、手元に視線を落とした。すると顎の下に彼の手が添えられ、私の視線を再び彼へと向けさせた。「その美しい瞳を隠さないでくれ、ソルニシコ。君のその独特な瞳なら、一日中でも一晩中でも見つめていられる。決して飽きることはない」
この時点で、私の顔はきっと見事なほど真っ赤になっていただろう。どう返していいか分からず、私はふと頭に浮かんだことを口にした。「待って、どうしてここに居るの？」
彼はくすりと笑った。「アルニカを持ってきたんだ。君の首の痣に効くから。イワンやミーシャと話をしていたら、君の叫び声が聞こえてね。トラブルに巻き込まれたか、誘拐でもされそうになっているのかと思ったよ」
「どうして私が誘拐なんてされるの？」
彼は小首を傾げ、意味ありげな笑みを私に向けた。「俺にはいくつか、理由が思い当たるけどな」
私は彼の答えを完全には理解できていなかった。「私はただの一般人よ。誘拐される理由なんて何もないわ」
「君はただの『誰でもない』存在なんかじゃない、ペルセポネ。だが不運なことに、有力なマフィアのボスの息子に目をつけられてしまった。わがままな子供のような男だが、それでも有力者の息子には違いない。君にコケにされたと感じている彼は、復讐を果たすまで止まらないだろう」
「私が彼をコケにしたって！？ あいつ、私を殺そうとしたのよ！！」
「わかっている。他のボスたちも、彼の父親さえもな。だがアンソニーは、公衆の面前で叩きのめされたことをそう簡単に飲み込めない男なんだ。どれだけ自業自得であろうともな。プライドを傷つけられたのさ」
私はただ彼を見つめていた。彼がいかにハンサムか、その触れ方がいかに優しいか、そして私に迫りくる破滅についての説明がいかに淡々としたものか、考えないようにしながら。「だからあなたのボディガードを私につけたの？ あなたは？ 彼らがいなくて危なくないの？」
彼はくすりと笑って首を振った。「誰かが君に復讐しようとしていると言ったばかりなのに、俺の身の安全を心配するのか？」
「それは、まあ……うん」
「俺の守りは堅いよ、ソルニシュコ。他にも護衛はいる。だがヴィクトル、アンドレイ、イヴァン、ミーシャは俺の精鋭だ。だからこそ君につけた。彼らなら全面的に信頼できる」
「いつまで彼らはここにいるの？ 私はいつ仕事に戻れる？」
「まだ仕事に戻るのは得策じゃないな。アンソニーの行方が掴めていないんだ。昨夜の会合の後、姿を消してしまって誰も居場所を知らない。君を安心して仕事に戻すには、まず彼を見つけ出さないと」私が眉をひそめるのを見て、彼は付け加えた。「心配するな、ソルニシュコ。生活費の面倒は俺が見る」
「えっ？ だめよ。そんなこと頼めない」
「頼まれてはいない。俺が申し出たんだ。さあ、受け入れてくれ」彼はそう言って、魅力的な笑みを向けた。
私は彼の瞳に吸い込まれてしまった。笑っている時の彼の目は、さらに美しかった。ボスとしての顔をしている時は冷酷で生気がないこともあるけれど、私に微笑みかける時は、寝室の薄暗い明かりの中でキラキラと輝いているようだった。その瞳に浮かぶ喜びを見て、私もつられて微笑んでしまう。その喜びを毎日見ていたい、そう思わせるものだった。
「わかったわ。でも、納得したわけじゃないからね」私はそう言って、小さな子供のように胸の前で腕を組み、口を尖らせた。
彼はまた笑うと、今度は身を乗り出して私の額にキスをした。彼が触れただけで全身が熱くなったけれど、唇が額に押し当てられると、その熱は別次元のものになった。私はその仕草に少し呆気にとられたが、それでも内心ではもっと触れてほしいと願っていた。
私は彼の手を掴み、両手で包み込んだ。「ありがとう」
「当然のことだ、ソルニシュコ。もう一度休んだほうがいい」
「ああ、それなんだけど……悪夢を見るのはもうごめんだわ。しばらく眠れそうにないし」
「なら、おいで。その変色した首にアルニカを塗ってやろう」彼は私の手を取って立ち上がりながら言った。私が止める間もなく、彼は私を引っ張り上げた。
「あ……待って……」立ち上がった瞬間、私は自分が大きめのTシャツ一枚で、ズボンを履いていないことを露わにしてしまった。
必死にTシャツの裾を伸ばそうとする私をよそに、彼の視線がゆっくりと私の体を這うように下りていった。彼の瞳の色が濃く、暗くなる。顎がわずかに強張るのが見え、私を握っていない方の手が拳を作っているのに気づいた。彼の視線が私の顔に戻る。彼は身を寄せると、額にキスをして言った。「すまない。キッチンで待ってる」
