第36章

篠原菫子は驚いた。

暗闇に目が慣れてから、やっと藤原和也が一人でソファに座っているのが見えた。彼は火の付いていない葉巻を口にくわえ、両手を膝に置き、眉を軽く寄せ、その深い黒瞳で篠原菫子を見つめていた。

「あなた...」篠原菫子は藤原和也になぜまだ寝ていないのか、そして林田月はどこにいるのかと聞こうとした。

だが、言葉は口から出なかった。

彼女は藤原和也の表情に怯えていた。

「こっちに来い」藤原和也の声は勅令のように、篠原菫子に拒否の余地を与えなかった。

一瞬、篠原菫子は自分が藤原和也のそばにいる身分の低い、寵愛されない、そして過ちを犯した女房のような気分になった。

藤原和也が来...

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