第43章

平原綾香は、何度も何度も続く挨拶回りからようやく一時的に解放され、比較的静かな隅へ身を寄せて、ふっと息をついた。

その瞬間、ふと気になる。

松村礼嗣は?

さっきまで海外の提携先と談笑していたはずなのに、気づけば姿がない。

今夜の主役中の主役が、こんなに早く会場を抜けるだろうか。体調でも崩した?

胸の奥に小さな引っかかりが生まれた、そのとき。

バッグの中のスマホが、ぶる、と震えた。

取り出して画面を見ると、表示された名前に綾香はわずかに目を見開く。松村礼嗣からの着信だ。

こんなタイミングで、どうして自分に?

わけがわからないまま通話ボタンを押す。

「もしもし。松村様?」

...

ログインして続きを読む