第59章

乙村彩羽は部屋に戻り、身支度を整えた。

廊下の突き当たり。二人は角の陰に目をやり、短く視線を交わす。

村上がこちらに向かって親指を立てた。

乙村彩羽が部屋から出てくると、二人は何事もなかったかのように、無垢でおとなしい顔に戻った。

「一緒に行きます? お手洗いの近く、電気が切れてて少し暗いですよ」

乙村彩羽は首を横に振る。

「ありがとう。でも大丈夫」

掃除は手早く済ませるつもりだ。中に長居することはない。

それに、暗いことより今の彼女が怖いのは——顔も心も知らない相手だ。いつ、どんな言いがかりをつけられるかわからない。

軽く会釈をして、乙村彩羽は外のトイレへ向かった。

言...

ログインして続きを読む