第10章

ぼんやりしている隙に、渡部綾香はもう自室へ引っ込んでいた。林野正明は腹の底で怒りを煮えたぎらせながらも、わざわざ二階へ押しかけて引きずり出す気にはなれない。

そんな真似をしたら、みっともなさが際立つだけだ。娘に怯えたなんて、なおさら認めたくない。――だから決めた。綾香が目を離した瞬間を狙って、あの男の子をどこかへ追い払う。

翌朝。

渡部家の静けさは、せわしない馬蹄の響きと鼻息で叩き割られた。そこに混じるのは、訓練された者特有の殺気――背筋を冷やす、あの空気だ。

執事が青い顔で駆け込んでくる。

「林野様、奥様、お嬢様! そ、外に……馬がたくさん、それに人も……! 先頭の方が、鈴宮様で...

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