第12章

林野佳恵は、林野正明が自分にあんな獰猛な顔を向けるところなど見たことがなかった。血の気が引き、もう一言も返せないまま、逃げるように自室へ引き返す。

二階――渡部綾香の寝室。

綾香は鈴宮深をソファに座らせ、濡らしたタオルで頬の涙の跡と埃をそっと拭ってやった。

少年は抵抗せず、されるがまま。大きな瞳はまだ赤いのに、その視線だけはずっと彼女を追っている。

「お腹、空いてる?」

声を柔らかくして訊くと、深はぱちりと瞬きしただけで、うなずきもしない。首も振らない。代わりに小さな手を伸ばし、また綾香の服の裾をぎゅっと掴んだ。

その仕草に、綾香は心の中で息を吐く。

消化にいい薄味のものを用意...

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