第143章

渡部綾香の目元が、みるみる真っ赤に染まった。

彼女は彼を見つめる。誰の前でも冷酷で、ためらいなく切り捨てる男が――今だけは、子どもみたいに。どこか卑屈にすら見える眼差しで、彼女を見ていた。

綾香はふいに背伸びをし、彼の首に腕を回す。ぐい、と引き寄せて、額と額を重ねた。

「鈴宮京也」

一音ずつ噛みしめるように、軽いのに揺るがない声で言う。

「ちゃんと聞いて」

「この世界で、命を懸けて探しに行く男は一人だけ。何もかも捨てて海に飛び込める男も一人だけ。……一生かけて愛せる男も、一人だけ」

彼の瞳を覗き込む。そこには、彼女自身が小さく映っていた。

「その男は、あなただよ。……あなただ...

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