第30章

彼は、彼女が見せるその「弱さ」が嫌いだった。たとえ、それが自分の手で叩きつけたものだとしても。

もう彼女を見ようとせず、くるりと踵を返すと、近くの給仕に短く言い捨てる。

「ぬるい水を一杯、持ってこい」

そうして彼は、別の客と話している村野のほうへ向かった。まだ片づけるべき「用」がある――そういう背中だった。

渡部綾香はソファに身を沈め、目を閉じて呼吸を整える。胃の奥はまだぐらぐらと波打ち、こめかみには細かな冷や汗がにじんだ。

鈴宮京也の、あの無茶苦茶な「死のスピン」の後遺症が、想像以上にきつい。

そのときだった。

少しけばけばしいスパンコールのスーツを着た男が、するりと寄ってく...

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