第44章

 彼女の問いは気まぐれで、ただの世間話にしか聞こえなかった。

 小山はふと視線を上げ、浴槽の中の渡部綾香を見た。相変わらず、非の打ちどころのない恭しさを顔に貼りつけたまま、淡々と答える。

「渡部さん。私は雇われの身ではございません。幼い頃から鈴宮家で育ち、鈴宮家に仕込まれた人間です。忠誠も奉公も、鈴宮家にのみ捧げております」

 幼い頃から鈴宮家で――。

 渡部綾香は腑に落ちた。

 金で動く使用人ではない。血肉の奥まで鈴宮家に結びつけられた、いわば家付きの人間。金銭で揺さぶれる類ではない。

(小山みたいな補佐役を一人、こちら側に置けたら……)

 そんな目論見は、ひとまず胸の奥へ引...

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