第53章

一方、鈴宮京也は渡部綾香が笑みを引っ込めるのを待ってから、冷ややかに口を開いた。

「いい度胸だな」

脈絡のない一言。けれど綾香には、彼が何を指しているのかすぐにわかった。

現場を見ていなくても――リリスと自分の間で、穏やかじゃない何かが起きたことくらい察しているのだろう。

渡部綾香は顔だけをそちらへ向ける。

京也の表情は薄い。視線は、窓の外を凄まじい速さで流れていく景色へ落ちたまま。横顔の線だけが、氷みたいに硬い。

その言葉が褒めなのか、牽制なのか、ただの事実の指摘なのか――綾香には測りかねた。

「誘ってきたのは、向こうです」

暇つぶしに他人の家へ乗り込んで場を荒らすほど、彼...

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