第55章

林野佳恵、ついにお前にも今日が来た。

これは始まりにすぎない。

けれど渡部綾香は胸の内の熱を力任せに押し殺し、顔にはそれと正反対の、心配と痛ましさを素早く貼りつけた。

ベッドへ歩み寄り、声をふわりと落とす。壊れものに触れるみたいに、慎重な気遣いを滲ませて。

「佳恵……具合はどう? まだ痛い? お姉ちゃん、会いに来たの」

声も、表情も、完璧だった。

誰が見ても、妹を心から案じる優しい姉にしか見えない。

だが、その偽りの優しさは――傷口へ塩を塗り込むみたいに、林野佳恵の神経をえぐった。

「出てけ! 今すぐ出てけ!」

林野佳恵がぎょろりと目を見開く。瞳の奥で怨毒と狂気が弾けた。

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