第56章

鈴宮家の屋敷本邸へ戻ったとき、時刻はまだ早かった。

渡部綾香は車中でとっくに感情を整えている。病院で見せた揺らぎは、顔のどこにも残っていない。むしろさっきの不愉快な面会のせいで、纏う空気は少し低く沈んでいた。

リビングへ入ると、鈴宮京也は相変わらずそこにいた。書類は何枚か差し替わり、手元には飲み物がなみなみと注がれたグラス。

足音に気づいて顔を上げ、彼の視線が彼女の顔で止まる。いつもより、ほんの一、二秒だけ長い。

「帰ったか」

淡々とした声。

「ええ」

渡部綾香は短く答え、そのまま二階へ上がろうとした。夜の家宴に備えて着替えるつもりだった。

だが、彼の横を通り過ぎた瞬間、鈴宮...

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