第107章

佐藤国芳が命を下すと、二列に並んだ警備員たちが迅速に動き、私と義母の間を分断した。リーダー格の男が、うやうやしく出口を示す。

「奥様、お引き取りください」

その声は慇懃ではあったが、有無を言わせぬ圧力を孕んでいた。

「お義母さん、嫌です。夫がまだあの中で生死を彷徨っているというのに、帰れるわけがないでしょう」

私は冷ややかな声で言い放った。山本翔一との夫婦仲など、とっくの昔に冷え切っている。だが、たとえ別れる運命にあるとしても、彼には生きていてほしい。あの手術室で、生死不明のまま横たわっている姿など見たくないのだ。

それに、目の前にいる伊織という女——その瞳に宿る悪意は見過ごせない...

ログインして続きを読む