第61章

佐藤国芳たちを見送り、彼が残した言葉を反芻しながら、私はいつの間にか山本翔一の書斎へと足を踏み入れていた。普段、山本翔一は他人が書斎に立ち入ることを禁じているため、私にとってもこの部屋の様子は馴染みがないものだった。

本棚に整然と並べられているのは、ビジネス書や法律関係の書籍ばかりだ。どれも山本翔一がここ数年で手にしたものらしく、彼の幼少期を偲ばせるような品や本は見当たらない。母親の目から見れば、養子と実の娘が親密であることは幸福な光景なのかもしれない。けれど妻としての私には、山本翔一と佐藤美咲のあの親密な距離感は、どうしても受け入れ難いものだった。

机の上に置かれたフォトフレームに、そ...

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