第66章

「あなた、今どこにいるの?」

私は声を潜めて尋ねた。案の定、山本翔一はまだ出張先から戻っていなかった。今回の出張の理由が何なのか、彼は言わなかったし、私も聞きはしなかった。いつものことだ。彼は自分から仕事の内容を私に話そうとはしない。彼自身が必要だと判断しない限りは。

山本翔一という男は、生まれつき疑り深い。だから私も、彼に隠れて手持ちの鈴木グループの株を売り払ったことを、まだ知らせるつもりはない。将来、無用なトラブルを招かないためにも。

あと数日は戻らないという山本翔一の言葉を聞き、張り詰めていた心がふっと緩むのを感じた。数日あれば、佐藤美咲との次なる対決に向けて準備するには十...

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