第74章

男が顔を上げた。その顔をはっきりと認めた瞬間、私の心は谷底へと突き落とされたような気分になる。なんと、氷川亜紀の夫である斎藤慎だったのだ。

私は信じられない思いで目を見開き、震える声で問いかける。

「あなたは……斎藤慎さん?」

斎藤慎の顔には、羞恥と不満が入り混じっていた。彼は身をよじりながら、私に向かって吠える。

「鈴木弁護士……あんたが鈴木弁護士だな?」

山本翔一は眉をひそめ、怪訝な表情で私を見た。

「静香、これは一体どういうことだ? お前、こんな狂人と知り合いなのか?」

私は深く息を吸い込み、努めて冷静さを取り戻してから山本翔一に説明する。

「彼は斎藤慎さん。氷川亜紀さ...

ログインして続きを読む