第76章

「そう、私は聞き分けよくしなきゃ」

不意に頭が冷えた。今、自分にとって何が最優先なのかを理解しなければならない。そう思うと、私は急いで部屋を飛び出し、山本翔一の背中に後ろから抱きついた。

しくりと鼻を鳴らしながら、彼の背に顔を埋める。両腕をその腰に回した。

「山本翔一、私が間違ってたわ。お願い、私を見捨てないで」

山本翔一の鼓動が、一拍だけ乱れたのが伝わってきた。だが、その声は相変わらず静まり返っている。

「佐藤美咲はいい子だ。俺がきちんと躾けてやる。だからあいつに割く時間は少し増えるだろうが、理解してくれ」

山本翔一は淡々と言った。

「俺たちは結婚したんだ。そう簡単に...

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