第86章

契約書へのサインを済ませると、平沢雪乃は手元の書類を愛おしそうに抱きしめ、満面の笑みで私に言った。

「静香、今日は絶対に豪華なディナーをおごらせてよね。何が食べたいか、早く考えておいて」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、傍らにいた山本翔一が冷ややかに鼻を鳴らした。あからさまな不満が込められた音だ。平沢雪乃は、まるで今そこで山本翔一の存在を思い出したかのように振り返り、彼に向かって言い放つ。

「ふん、法律事務所を私の名義にしたからって、感謝されるなんて思わないでよ。私はただ、静香のために預かってるだけなんだから。あなたがまた彼女をいじめるようなことがないようにね」

山本翔一は勢...

ログインして続きを読む