第97章

どれくらいの時間が経ったのだろう。ドアが開く音で目が覚めた。

窓の外は空が白み始めているものの、部屋の中にはまだ薄暗い朝の気配が残っている。重い瞼を開けると、山本翔一が革靴を手に提げ、まさに部屋を出て行こうとしているところだった。

「あなた」

私が声をかけると、山本翔一は驚いたように振り返る。

「起こしてしまったか?」

私は身の下のシーツをぎゅっと掴み、何も言わずに彼を見つめた。彼は弁解するように言葉を続ける。

「会社で急用ができてな、どうしても戻らなきゃならないんだ。極力音を立てないようにしたつもりだったんだが……悪かった。午前中はゆっくり休んでいてくれ。午後には運転手を寄越し...

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