第2章

午前一時。六年間、我が家だったマンションへ、私は一人で帰ってきた。

拓真はまだ本邸にいる。きっと由香里さんと「大事な話」でもしているのだろう。あるいは、お荷物である私をどう「始末」するか、相談しているのかもしれない。

でも、そんなことはもうどうでもよかった。

私は素早く、決然とした動きでスーツケースを引きずり出した。彼が私を格下だというのなら、その通りにしてやろう。私がここにふさわしくないというのなら、出ていってやろう。

「六年間……私をまるで召使いのように扱った男を愛していたなんて、本当に馬鹿だった」

誰もいない寝室に向かって、私は痛々しいほどの自嘲を込めて呟いた。震える指で、クローゼットに並ぶ優雅なドレスをかき分ける。どれも拓真が、様々なパーティーで「恥をかかないように」と買い与えたものだ。

これらさえも、愛情ではなかったのだ。

化粧台の前に立ち、鏡に映る自分を見つめる。目は腫れて赤く、化粧は崩れている。けれど、その瞳には今まで見たことのない光――澄み切った光が宿っていた。

引き出しには、私たちの写真がきちんと並べられていた。大学のキャンパスで撮ったぎこちない最初のツーショットから、つい最近の家族の集まりまで。どの写真も、私が幸せだと思い込んでいたものを捉えていた。

『価値のない飾り物……あなたはいつも、私のことをそう見ていたのね』

ビリッ――

最初の写真を、真っ二つに引き裂いた。拓真の整った顔がフレームから消える。

ビリッ――ビリッ――

一枚また一枚と、六年間分の思い出が手の中でバラバラの欠片になっていく。破るたびに、心が軽くなっていくのを感じた。手放すって、こういうことだったんだ。

キッチンへ移動すると、床から天井まである巨大な窓から月光が差し込み、イタリア産大理石のカウンターを照らしていた。ここで拓真のために栄養を考えた食事を準備しようと、夜遅くまで働いた数え切れない夜を思い出す。

「美玲、明日は大事な客が来る。イタリア料理を用意しておけ」拓真の声が耳元で響くようだ。

その頃の私は、いつも熱心に頷いていた。「もちろんよ、拓真。何がいい?」

「なんでもいい。お前が考えろ」。それが彼のいつもの返事だった。そして、振り返りもせずに書斎へ向かうのだ。

今ならわかる――彼は一度として、ありがとうと言ったことがなかった。

私は苦々しく首を振り、ウォークインクローゼットへと向かった。そこは拓真のオーダースーツで埋め尽くされていた。どの場面でどれを着るか、どの色にどのネクタイを合わせるか、どのカフスボタンを選ぶべきかまで、私はすべてを完璧に把握していた。

「この書類を整理しておけ。俺は休む」。また別の、拓真の冷たく事務的な声が蘇る。

拓真が寝室でぐっすり眠っている間、私が夜明けまで一族の書類を整理していたいくつもの夜。私はそれを、責任の分担であり、信頼であり、愛の証だと思っていた。

「愛だと思っていた……。実際は、ただの無料の家事代行サービスだったのね」

また涙がこみ上げてきたが、今度は隠さなかった。流れるままに任せた。この涙が枯れる頃には、すべてが終わる。

午前四時。玄関のドアで鍵が開く音がした。

私は急いで涙を拭い、スーツケースを傍らに置いてリビングの中央に立った。拓真の千鳥足が聞こえ、部屋の向こうからアルコールの匂いが漂ってきた。

「美玲?」拓真の声は呂律が回っていない。「まだ起きていたのか?」

彼はよろめきながらリビングに入ってきた。スーツはしわくちゃで、ネクタイは曲がっている。私の傍らのスーツケースにも、赤く腫れた私の目にも、全く気づいていない。

「明日は大事な会議がある。資料の準備を忘れるなよ……」。拓真はソファに崩れ落ち、ぼんやりと天井を見つめた。「ああ、そうだ。この部屋、改装しようと思ってる。由香里がいい提案をしてくれてな。明日、デザイナーにいくつか電話して、見に来させろ」

由香里。彼の理想の女性。今夜会ったばかりだというのに、もう彼の家のことにまで口出ししている。

一方で、六年間ここに住んできた私は、自分の存在の痕跡をすべて消し去るために、デザイナーに連絡しろと言われているのだ。

心臓が押し潰されそうだったが、私の声は不気味なほど穏やかだった。「わかったわ、拓真」

「お前はいい子だな……いつも素直で」。拓真は満足そうな笑みを浮かべて目を閉じた。「ご褒美として、小遣いを増やしてやるか。よく働くからな……」

素直な道具、ということだろう。そして道具には、働いた分の対価を払うべきだと。

この酔っ払った男を見ていると、心に残っていた最後の一筋の愛情が、ついにぷつりと切れた。かつては愛していた。何でもしてあげたいと思うほどに。彼にふさわしい自分ではないと本気で信じ込んでしまうほどに、深く愛していた。

でも今は、ただただ嫌悪感しか湧いてこない。

裏切られたからではない。彼の無神経さに対してだ。六年間、彼は一度も、本当の意味で私を見ていなかった。

夜が明け始めていた。拓真はソファで深く眠り込んでおり、酔いのせいで自分の周りで起きている変化に全く気づいていない。

私は彼にそっと忍び寄り、バッグから一枚の紙を取り出して、その胸の上に置いた。

メモにはこう書かれていた。

拓真へ、

現実を教えてくれてありがとう。

私には神谷の名はふさわしくありません。

これからは、私たちは何の関係もありません。

――価値のない飾り物より

眠っている拓真を最後にもう一度だけ見た。郷愁も、未練もない。ただ、安堵感だけがあった。

スーツケースを引きずり、六年間を共にした家を出た。エレベーターのドアが閉まると、私は生まれ変わったような気がした。

―――

――雪野国際空港、夜明け直後。

ターミナルは閑散としていた。私は南野市行きの始発便の搭乗エリアに座り、携帯電話の電源は切っていた。過去からの声を、もう聞きたくなかった。

「お客様、大丈夫でございますか?」客室乗務員が心配そうに声をかけてきた。「お顔の色が……」

「大丈夫です。新しい人生を始めるんです」。私は顔に残っていた最後の涙の跡を拭い、この六年間で初めて、心からの笑顔を見せた。

飛行機は間もなく離陸する。窓越しに、私は雪野市の街並みを最後にもう一度だけ見つめた。太陽が昇り、金色の光が雲を突き抜けて、眼下の大地を照らし出していた。

「さようなら、神谷拓真。さようなら、私の屈辱の六年間」

飛行機は雲を突き抜け、南野市へと私を運んでいく。未知の未来へと、私を運んでいく。

その頃、あの高級マンションでは、拓真がまだソファでぐっすりと眠っていた。自分の世界が間もなく根底から覆されることなど、全く知らずに。

置き手紙は静かに彼の胸の上に置かれ、彼が目覚めた時の衝撃を待っていた。

だが、それはもはや私の知ったことではなかった。

桜井美玲の新しい人生は、今、始まったのだ。

前のチャプター
次のチャプター