第4章

私は鏡の前に立ち、黒いドレスの生地を指でなぞった。

このドレスは二年もの間クローゼットに掛かっていたけれど、今夜のように自分のために着たいと思ったことは一度もなかった。

今夜は違う。おしゃれをするのは、始の視線を期待してなんかじゃない、自分のため。そして――私の才能を、本当に認めてくれた隼人のためだ。

「大丈夫よ、遥」私は鏡の中の自分に言い聞かせ、深呼吸して高鳴る鼓動を落ち着かせた。

清峰市のアート地区にある明光ギャラリーは、柔らかく温かい光に満ち、ワインの香りと芸術的な雰囲気が入り混じっていた。

ヒールを履いて展示ホールに足を踏み入れると、すぐに隼人の作品が持つ視覚...

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