第2章
浅桐瑠璃視点
永遠に続くかのような夜だった。彼の呼吸の数を数え、朝日が昇るまでの時間を数え、私を何とも思っていない人を愛することに費やした、すべての瞬間を数え続けた。
ようやくテントに光が差し込み始めた頃、私はそっと彼の腕を自分の体からどかした。体は感覚を失い、まるでロボットのようだった。
「ん……」
高橋尚樹がまだ半分眠ったまま、私に手を伸ばしながら呟いた。
「どこ行くんだ?」
「トイレ」
どういうわけか、ごく普通の声が出た。
「あなたは寝てて」
凍えるような朝の空気の中、私はまっすぐ指導員たちのキャビンに向かい、電話を使わせてほしいと頼んだ。
「家の急用なんです」
私は彼らにそう告げた。声は完全に落ち着いていて、穏やかだった。
「今日、家に帰らなければならなくなりました」
二十分後、私がダッフルバッグに荷物を詰め込んでいると、高橋尚樹が混乱したような眠そうな顔で現れた。
「瑠璃? どうしたんだ? 帰るって聞いたけど」
彼の顔を見ることができなかった。もし見てしまったら、きっと感情が爆発してしまう。
「うん。家の都合で。帰らなきゃいけなくなったの」
「家の都合って? 大丈夫なのか?」
彼は近づいてきて、他のどんな女の子にも通用しただろう、あの心配そうな表情を浮かべた。ああ、この人は気にかけてるフリをするのが本当にうまい。
「みんな無事よ。ただ、私が対処しなきゃいけないことがあるだけ」
「俺も一緒に行こうか? 最終日くらい、サボってもいいし」
私の口から出た言葉は、完璧に感じが良くて普通だった。
「ううん、大丈夫。残って楽しんで」
彼はそれをすっかり信じ込み、吐き気がするような力強いハグをしてきた。
「家に着いたら連絡してくれよな?」と彼が言った。
「もちろん」
私は彼が千野誠の立っている方へ歩いていくのを見つめた。二人が何かを話して笑い始めるのも。それから私は背を向け、父の車が乗り入れてくる駐車場へと歩いた。
家までの道中は、ずっと静かだった。私は窓の外を眺め、山々が郊外の街並みに変わっていくのを、すべてがぼやけて過ぎ去っていくのを見ていた。
「瑠璃?」
前の席から母の優しい声がした。
「ねえ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、お母さん」
私は窓の外を見つめ続けた。
「ただ、大学の進路計画を少し変えるだけ」
T大へのあの早期出願の願書は、家のノートパソコンの中に保存されていて、クリックひとつで提出できる状態だった。数週間前、T市は素晴らしい場所になるだろう、高橋尚樹を追って町を横断するのはロマンチックで、彼をどれだけ愛しているかを示すことにもなると自分に言い聞かせながら、願書を完成させたのだ。
家に着くと、私はまっすぐ自分の部屋へ向かい、ノートパソコンを開いた。数秒間、指を削除ボタンの上でためらわせてから、それを押した。
ワンクリックで、T大は消えた。
次に、以前放置していたC大への願書を開いた。すぐに再申請を選択した。
それから三時間、すべてに目を通し、テストのスコアや活動記録、推薦状を更新した。万が一にもチャンスを逃したくなかったので、滑り止めとしてS大映画学部とB大も追加した。私のことなんてこれっぽっちも気にかけていなかった男をただ追いかけるのではなく、私が本当にいるべき場所。
三つの大学すべての願書をようやく提出し終えたときには、もう深夜0時を過ぎていた。私はノートパソコンを閉じ、椅子の背にもたれかかって、天井を見つめた。体は疲れ切っていたけれど、同時に電気が走るような感覚もあった。
続く数日間、私はほとんど部屋から出なかった。C大の合格通知が来るのは何週間も先だとわかっているのに、強迫観念に駆られたようにメールをチェックし、数分おきに更新ボタンを押していた。でも、やめられなかった。
私はその大学について、寮の間取り、映画制作のコース、スケジュールなど、あらゆることを調べ始めた。学園ツアーのユーチューブ動画を見たり、作品が気に入った映画学部の学生たちの個人ページを眺めたりした。これが、これからの私の未来だった。
携帯電話がひっきりなしに光っていたが、見なくても誰からのメッセージかはわかっていた。ロック画面に高橋尚樹の名前が現れるたびに、胃がキリリと痛んだ。
「大丈夫か? キャンプから帰ってきてから連絡ないけど」
「瑠璃? なんで返事しないんだ?」
「俺、何かしたか?」
最後のメッセージには、思わず笑いそうになった。俺、何かしたか、だって。まるで本気で心当たりがないみたいに。
私は機械的にスマホを操作し、すべてを削除していった。まずはSNS。自分の写真がすべて消えていくのを見ても、何も感じなかった。次にチャット。思い出の半分は、高橋尚樹とのくだらない自撮りだった。それからTikTok。彼が私を見つけたり、私の動向を監視したりできそうなアプリは、すべて。消した。
最後にやったのは、彼の電話番号のブロックだった。連絡先がスマホから消えるのを見つめていると、悲しみと安堵が混じり合ったような、奇妙な感覚が私を貫いた。私の人生の六年分が、数回のタップで消去された。でも、最初に私を消去したのは彼の方だ。私が人間としてまともに扱う価値がないと決めた、その時に。
三日目に、親友の石川沙織から電話がかかってきた。
「あんた、一体どうしたのよ?」
私が電話に出るなり、彼女は言った。
「完全に姿を消しちゃって。高橋尚樹がみんなにあんたを見なかったかってメッセージしまくってるし、SNSも消えてるし。何があったの?」
「後で話す」
私の声は平坦で、疲れていた。
「とにかく、今は信じてくれる?」
「瑠璃、心配させないでよ。大丈夫なの?」
「大丈夫。約束する。ただ、いろいろ整理するために少し時間が必要なだけ」
彼女は一瞬黙り、電話の向こうで息をする音が聞こえた。
「それって、キャンプと関係ある? 高橋尚樹と?」
すべてが高橋尚樹と関係ある。でも、まだそれを口に出すことはできなかった。「彼に利用された」とか「私はただの練習台だった」という言葉を、どうしても形にできなかった。
「すぐに全部説明するから」と私は言った。
「今は、その話はできないの」
「わかった」
彼女はまだ心配そうな声だった。
「でも、いつでも力になるからね。それはわかってるでしょ?」
「わかってる。ありがとう、沙織」
電話を切った後、私はノートパソコンに戻り、百度目にC大の住居ポータルを開いた。部屋割り当てが発表されるのは三月下旬だというのに、それでもチェックし続けていた。自分の人生がめちゃくちゃになってしまった現実以外の、何か具体的なものに集中する必要があったのだ。
その夜の夕食は気まずかった。両親はテーブル越しに何度も私に目をやり、それから私には見えないと思っているであろう心配そうな表情で顔を見合わせていた。私は皿の上の食べ物をただ箸でつつき、実際には食べずに、一方から他方へと移動させているだけだった。沈黙が重く、ひどく苦しかった。
ついに母が箸を置いた。その音は、静かな部屋にやけに大きく響いた。
「ねえ、キャンプで何かあったの?」
母の声は慎重で、まるで強く押しすぎたら私が壊れてしまうとでも恐れているかのようだった。
「帰ってきてから、ずっと静かだけど」
「大丈夫だよ、お母さん」
私は皿から目を離さなかった。
「大学のことを考えてるだけ」
父が咳払いをした。
「尚樹くんとは、T市での計画は固まったのかい? 飛行機の時間とか、寮の部屋割りとか、二人で調整するんじゃなかったのか」
彼の名前が出た途端、胃がねじれるようだった。箸を握る手に力が入る。両親が私を見て、答えを待っているのがわかった。もう、これ以上フリをし続けることはできなかった。フリをするのは、もううんざりだった。
「実はね」
私はゆっくりと言った。無理に顔を上げて二人を見つめる。
「そのことで、話があるの」
二人はぴたりと動きを止めた。母はナプキンをテーブルの上にそっと置いた。父は少し身を乗り出し、その表情は困惑から心配へと変わっていった。
私は息を吸い込み、自分に言い聞かせるようにして、言葉を紡いだ。
「私、T市には行かない」
