第16章 当時の真実

「それは三年前の……」

夏目緑が言いかけたところで、天樹夢子のバッグの中のスマホが鳴った。クライアントからの電話だ。

天樹夢子は電話に出た。「もしもし、桐生社長」

天樹夢子が電話に出るや否や、クライアントは愚痴をこぼし始め、それが延々と続いた。

夏目緑が天樹夢子に伝えようとした言葉は、無情にも喉の奥へと押し戻されてしまった。

ただ、天樹夢子が先ほどから何度もあなたの『社長』と口にするのを聞いて、夏目緑は、彼女とボスとの間にまた少し距離ができたのをはっきりと感じた。

彼女はもうボスの名前すら呼ばない。

はぁ!

十数分後、車は法律事務所のビルの前で停まった。天樹夢...

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