第173章 彼女はあなたが好き、ただあなたと一緒にいる理由を借りているだけ

今夜は天樹夢子と喧嘩するつもりはなかった。ただ、彼女が離婚届を突きつけてきた瞬間、彼はカッとなったのだ。

自分は離婚など考えたこともないのに、彼女はもう何度となくその話を持ち出してくる。

南湾のペントハウス。天樹夢子と笹川諭が部屋に入るやいなや、夢子のポケットの電話が鳴った。取り出して画面を見ると、陸川北斗からの着信だった。彼女は通話を切り、そのまま電源を落とした。

以前の喧嘩ならまだ和解の余地はあった。だが今回、陸川北斗が望月唯のために彼女の父親に便宜を図るよう頼んだことで、天樹夢子は完全に愛想を尽かした。彼の声すら聞きたくなかった。

ましてや望月唯は死んでいないのだ。二人の仲を成...

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