第188章 何の前触れもなく彼の目の前に現れる

「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが……」優しい声で叶ちゃんに物語を読み聞かせていた天樹夢子は、叶ちゃんが目を閉じて眠りについたのを見ると、手にしていた本を置き、身を屈めてその額にそっとキスをした。

自分が産んだ子はなんて可愛いのだろう。眠っている時でさえこんなにも愛らしく、見ているだけでキスしたくなってしまう。

さらに何度か叶ちゃんにキスをすると、天樹夢子はまだ時間も早いことに気づき、叶ちゃんに布団をかけ直してから書斎の机に向かい、案件の資料整理を始めた。

A市を離れていたこの数年間、彼女は叶ちゃんの世話をする以外、仕事と勉強に明け暮れていた。

今回帰国したのは、両...

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