第107章 彼は彼女を娶るつもりだ

「黒崎社長、いまは中にお入りいただけません」

扉の外から、スタッフの声が飛んできた。

「数日だけの婚約式とはいえ、こちらの慣習でして。式が始まる前にお二人はお会いできない決まりなんです」

黒崎恒一は困ったように息を吐いた。結婚式の前に顔を合わせない――なら聞いたことがある。だが、婚約式までそうだなんて。

とはいえ、相手の態度は頑として譲らない。押し切れる空気でもなかった。

黒崎恒一は扉越しに、室内の水野優奈へ声をかける。

「緊張するな。今日の段取りは全部こっちで整えてある。何も起きない。優奈は、力を抜いていればいい」

扉の向こうから、優奈の声が返ってきた。

「うん、分かった」...

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