第196章 秒を惜しむ

「黒崎幸枝さんは、いま極めて危険な状態です。転倒による外傷が多く、骨折も複数。ご高齢ですから……正直、乗り越えられない可能性が高い」

医師の言葉に、桜井瑞希は目を見開いた。すぐには信じられない。

黒崎家を離れてから長い。黒崎幸枝と顔を合わせる機会も、決して多くはなかった。

それでも、幸枝が自分に、そして子どもたちに注いでくれた優しさは、ずっと瑞希の中に残っている。こんな結末など、受け入れられるはずがない。

ついさっきまで、あんなに元気だったのに。

どうして――どうして、こんなことに。

「……本当に、もう手立てはないんですか?」

瑞希が食い下がると、医師は小さく首を振った。

「...

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