第92章 後悔しないことを願う

「……おい、どうしたんだ?」

黒崎恒一は、桜井瑞希の様子がさっきより明らかに悪化していることに気づいていた。

頬は熱に浮かされたみたいに真っ赤なのに、表情の奥には、どこか人を誘うような色が滲んでいる。指先の動きひとつ、息遣いひとつが――まるで、彼に全部を受け取れと言っているみたいだった。

焦点の合わない瞳。見つめ続けたら、魂ごと引きずり込まれそうで。

恒一は体温を確かめようと手を伸ばす。だが触れる前に、鋭い声が飛んできた。

「触らないで!」

瑞希の声は、泣きそうに震えていた。いま彼女が何を耐えているのか、恒一には想像もつかない。

最初は、熱い湯に全身を浸されているみたいだった。...

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