第8章

北野紗良視点

北野彩香の絹のパジャマを着たまま、私はよろよろとキッチンへ向かった。

そこで私を迎えたのは、まるで雑誌の特集ページから抜け出してきたかのような光景だった。榎本達也がコンロの前に立っていた。朝の八時だというのに完璧な身なりで、フレンチトーストらしきものをひっくり返している。

「おはよう。君の好きなフレンチトーストを作ったよ」

その家庭的な光景は、胸を突かれるような衝撃だった。誰かが私のために料理してくれたのなんて、いつぶりだろう?

「こんなことまでしなくてよかったのに、達也」

彼は振り返り、あの破壊的な笑みを顔に浮かべた。「俺がしたいんだ。最近の君は、なんだ...

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