第5章
香水工房を出た瞬間、あの忌々しいひそひそ話が耳に飛び込んできた。
「聞いた? あの双子が、例の香水師を取り合ってるって」
「一度振った女を、亮介が追いかけるなんてね。傑作だわ」
恥ずかしさで頬がカッと熱くなる。さっきの口論、聞かれていたのだ。今やクラブ中の誰もが知っている。私が兄弟喧嘩の原因になってしまったことを。
突然、ホール全体が不気味なほど静まり返る。
背後から、亮介が荒々しい足取りで追いかけてきた。その瞳には、危険な炎が宿っている。彼は周囲の視線をものともせず、真っ直ぐ私に向かってきた。
「そいつを俺の元に返せ、拓海」
言い終わるや否や、亮介は大股で近づき、抵...
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