第94章

彼女にできるのは、過去の嫌な出来事を思い出さないようにすることくらいだ。だが、卑屈になれと言われても、そんなことは絶対にできない。

村野池は軽く舌打ちした。

「安心しろ、そこまで変態じゃないさ。ただ俺を部屋に招き入れてほしいだけだ。医療従事者に対する最低限の敬意くらい持ってるだろう?こうしよう、『お兄さん』って呼んでみたらどうだ?」

前田南は本気で彼のむかつく顔面に拳を叩き込みたかった。

人間ってこんなにも腹立たしくなれるものなのか?

彼女は心の中の衝動を必死に抑え、歯の間から絞り出すように言った。

「調子に乗らないで」

彼のどこが「お兄さん」なんだ?いいところなんて一つもない...

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