第1章
瑠美視点
「本気であの子に惚れたわけ?」
私は足を止めた。梨乃の声だった。すぐ先の階段の踊り場から聞こえてくる。
「梨乃……」牧人の声には疲労が滲んでいた。「やめてくれ。こんなところで」
「やめるって、何を? 質問すること? それとも本当のことを話すこと?」彼女の声は、今まで聞いたこともないほどにひび割れていた。「あなたは私を愛してる。ずっと私を愛してきたじゃない。四年前のこと、忘れたなんて言わせない。あの事故よ、牧人。あなたは私を追いかけて車を事故らせた。それほどまでに、私のことを愛していたから!」
四年前。
まるで腹を殴られたかのような衝撃だった。急に足から力が抜けて、立っているのもやっとだった。
四年前、私は病院のベッドで目を覚ました。どうしてそこにいるのか、記憶はなかった。四年前、両親が死んだと告げられた。
四年前、私の人生のすべてが終わりを告げた。なのに、その瞬間のことさえ覚えていない。
「あの子との結婚なんて許さない!」梨乃の声が今度は獰猛になった。「好きなだけ結婚式を延期すればいいわ。でも、本気で実行させるもんですか。絶対に」
長く、恐ろしい沈黙が流れた。その間、自分の呼吸音だけがやけに大きく耳に響いた。
「梨乃」やがて牧人が口を開いた。「戻らないと。二人ともいないことに、誰かが気づく」
それだけ? 言うことは、それだけなの? 何も、否定しないの?
物音がして、私は慌てて角を曲がって後ずさり、影の中に身を潜めた。二人が一緒に階段から出てくる。薄暗い照明の中でも、はっきりと見えた。梨乃の唇は赤く腫れ上がっている。牧人のネクタイは曲がり、横にずれていた。
なんてこと。
ただの週末旅行のはずだった。牧人の友達が集まりたいと言うので、私たちは車で名波まで来た。気楽な集まりだよ、と彼は言っていた。近況を報告し合って、ワインでも飲んで、リラックスしようって。
梨乃も来た。もちろん、梨乃も。彼女は今年、フランス留学を終えて帰国したばかり。ようやく学位を取ったのだ。牧人の義理の妹。義野の母親の、前の結婚相手との間にできた娘だ。帰国してもう半年になる。私は彼女に対して、ずっと親切にしよう、辛抱強くいるよう努力してきた。たとえ彼女が、まるで靴の裏にこびりついた何かでも見るような目で、私を見ていたとしても。
そして、二人はトイレに行った。二人とも。まず梨乃が席を立って部屋を出て、五分後に牧人が後を追った。彼が出ていくのを見ながら、私は胃の奥が冷たくなるような感覚を無視しようと努めた。十分が過ぎた。十五分。他の皆は笑い、酒を飲み、誰も気づいていないようだったけれど、私は気づいていた。
だから、探しに来たのだ。
そして今、探しになんて来なければよかったと後悔している。
二人の姿が完全に見えなくなるのを待って、私はようやく息を吐いた。両手はひどく震えていて、ポケットに突っ込むしかなかった。
冷たい壁に額を押しつけ、今聞いたばかりの言葉を整理しようとする。
四年前。私が病院の一室で目を覚ましたとき、牧人は私の手を握っていた。最初に見たのは彼の顔だった。「目が覚めたんだね」彼はそう言って、泣いていた。「よかった、瑠美、目が覚めて」それから彼は、私に告げなければならなかった。
両親のことを。飲酒運転の車が両親の車に衝突したこと。私がすぐ後ろを自分の車で走っていて、衝突を避けようとハンドルを切って木に激突したこと。両親は即死で、私は二週間も昏睡状態だったこと。
私は何も覚えていなかった。今も、覚えていない。事故の前の丸一ヶ月間の記憶が、誰かが脳を消しゴムでこすったかのように、きれいさっぱり消え去っている。
喉が締め付けられるようだった。
牧人はどんな時もそばにいてくれた。葬式では私を抱きしめてくれた。回復する間、私が基本的な動作を思い出すのを手伝ってくれた。記憶の隙間を埋めるために、両親の話をしてくれた。そして、あの夜、本当に何があったのか、真実を必ず突き止めると約束してくれた。
そして私は、彼を信じていた。梨乃が帰国してからは、彼女の些細なコメントや、棘のある言葉を無視してきた。周りにはただの家族間のからかいにしか見えないような、そんな言葉を。彼女はただ兄を大事に思っているだけなのだと自分に言い聞かせた。私が大人にならなきゃ、辛抱強く、理解ある人間にならなきゃ、と。
壁から身を離し、無理やり個室へと歩き出す。自分の足が、まるで他人のもののように感じられた。
ドアノブに手をかける。中からは笑い声や音楽、グラスの触れ合う音が聞こえてくる。普通の音。普通の夜。
「四年前……事故……私を追いかけて……」
四年前、牧人は私の事故とほぼ同じ頃、軽い接触事故を起こしたと話していた。大したことじゃない、誰かの車にぶつけたか何かだ、と。彼はまったくの無傷だと言っていた。
でも、梨乃がさっき言ったことは違う。彼女は、彼が車を事故らせたと言った。彼女を追いかけていた、と。
四年前。両親が死んだ、まさにその時。私が記憶を失った、まさにその時。
それがただの偶然であるはずがない。
私は、ドアを開けた。
