第23章 押し出す

山川心菜はその場に立ち尽くし、爪が掌に食い込みそうだった。

西野直人の横顔を見つめ、きっかり十秒――言い直すのを、そして「冗談だ」と一言でも口にするのを待った。

だが西野直人は、机上の書類を黙々と繰っているだけだった。さっきの言葉など、ただの会議日程を告げただけのように。

「直人兄……」

「心菜、ちゃんと手配するって言っただろ」

顔も上げない。声には早くも苛立ちが滲んでいた。

山川心菜は下唇を噛み、喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込む。

――騒いじゃだめ。

ここで騒げば、三年かけて築いた「聞き分けのいい女」が終わる。西野直人が許すのは、優しく気が利く女であって、ヒステリック...

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