第54章 私を待っていて

けれど彼女は、すぐには頷かなかった。しばらく沈黙を挟んでから、ゆっくりと言う。

「健斗、ありがとう。でも……今はまだ、行けない」

「月鳴プロジェクトのことか?」神田健斗が小声で問う。たぶん、彼女の胸の内は読めている。

「それだけじゃないわ」

若林星奈の視線が、テーブルに広げたびっしりと文字の詰まった資料へ落ちた。

「山川心菜が倒れない限り、私は安心できない。あの女の仕掛けは、私ひとりを狙ったものじゃないの。父の死も、優斗が三年も閉じ込められたことも……まだ精算できてない」

息を吸い込み、言葉を研ぐ。

「私が西野グループに残るのは、西野直人のためじゃない。奪われたものを取り返すた...

ログインして続きを読む