第58章 妻を追う

水谷瑞貴は、さっきから命を削るみたいに鳴り続ける電話を無視した。

そのまま若林優斗へ顔を向け、できるだけ穏やかな笑みを作ろうとする。だが、口角が裂けた傷に触れた途端、

「っ、つ……」

鋭く息を呑み、痛みに眉を寄せた。

「君、名前は?」

ひどく弱った声だった。それでも、子どもを怯えさせまいと意識して柔らかくしている。

若林優斗は逃げなかった。兎のぬいぐるみを抱えたまま、小さく首を傾げて答える。

「……優斗」

「優斗、か」

水谷瑞貴はその名を繰り返した。いい名前だ、と思った。

もう少し身を起こして、ちゃんと顔を見たかった。

けれど、体をわずかに動かした瞬間、腹のいちばん深い...

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