第68章 ウォーミングアップから始める

若林星奈は視線を落とし、自分のショートブーツを一瞥した。バッグからスニーカーを取り出して履き替え、ブーツは後部座席へ放り投げる。

「無駄口はいい。出して」

水谷瑞貴は口元をわずかに吊り上げ、アクセルを踏み込んで路地を抜けた。

クラブは郊外にある廃工場を改装した複合施設の中に潜んでいた。外観は地味なのに、扉をくぐれば別世界だ。プロ仕様のボクシングリング、器具エリア、それに半分だけ閉じた市街地戦のシミュレーションエリアまである。

水谷瑞貴は彼女を一番奥の個室トレーニングルームへ連れていった。ドアが閉まる。防音性は抜群で、外の気配がすっと消えた。

「まずはウォームアップ」

壁にもたれた...

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