第74章 これだけ?

彼女はそう言い切ると、くるりと背を向け、子どもを抱き上げて去っていった。

その場に取り残されたのは南川碧ひとり。半分こぼれたシャンパンのグラスを手にしたまま、頬を張られたのに声も出せない――そんな顔で固まっている。

周囲の連中は、いかにも「酒を飲んでますよ」という体で視線を落とす。けれど、目尻の端だけは南川碧に貼りついたままだ。

平手打ちより、よほど残酷だった。

打ち上げから三日後、西野グループは何事もなかったかのように通常運転へ戻った。

若林星奈はデスクに腰を下ろす。あの場で公然と釘を刺されて以来、南川碧は目に見えて大人しくなった。会えばへりくだって笑い、仕事も妙に協力的だ。

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