第79章 二人の見知らぬ人

西野直人。

その姿がロビーに現れた瞬間、さっきまでぶんぶんと飛び交っていた囁きは、まとめて火が消えたように途切れた。

若林茉祐はグラスを持った手を宙で固め、顔に貼りついていた得意げな色が、すうっと崩れ落ちる。

西野直人の視線は彼女をかすめたが、そこに一秒も留まらない。まっすぐ、若林星奈へ落ちた。

大股で歩いてくる。

若林星奈の前に立つと、ごく自然に腕を伸ばし、彼女を半歩ぶんだけ背中側へ庇った。

大げさな動きではない。けれど、全員が見た。

「さっき言ったのは誰だ。誰が、彼女は俺の妻じゃないって言った」

誰も声を出さない。

若林茉祐は反射的に二歩下がり、人混みに紛れようとする。...

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