チャプター 08
【イライジャ・ヴォーン】
彼は俺の肩を軽く叩いて緊張をほぐそうとしたが、その眼差しは重いままだった。
「さて、調理場へ向かうぞ。今日からお前の仕事が始まる」
廊下を歩き出したところで、彼は突然立ち止まり、眉をひそめた。
「大事なことを忘れるところだった。いいか、どんな状況であれ、絶対に暴動を起こそうとするな。前にもあったんだが……虐殺に終わった」
心臓の鼓動が早まった。
「え?」
口をついて出た自分の声は、思った以上に弱々しいものだった。
彼は溜息をつき、その瞳に陰惨な色が宿った。
「右棟での出来事だ。聞いた話じゃ、あそこは左棟ほど腐敗してないらしい。連中は看守に立ち向かおうとしたが、皆殺しにされた。何十もの死体が地面に転がり、反撃の隙すら与えられなかったそうだ。それ以来、反乱の兆候があれば、始まる前に徹底的に潰される。もし誰かがそんな話を囁いていても、聞こえないふりをしろ。ここでの暴動が招く結末は、死だけだ」
その現実の圧倒的な重みが胸にのしかかった。脱獄という考えが、ますます遠いものに感じられた。
調理場へ向かう途中、食堂の前を通った。胃がひっくり返りそうになったが、あの惨劇が起きた場所を見ないようにした。血の記憶、頭蓋骨を貫く刃、命が抜け落ちていく虚ろな目――思い出して体が震えた。
俺は深呼吸をし、彼についていくことだけに集中して歩き続けた。
調理場に着くと、彼は俺を貯蔵室へと案内した。そこは狭く、息苦しい場所で、棚には食材が溢れかえっていた。小麦粉の袋、缶詰の箱、山積みの米、その他の物資が無秩序に散乱している。
彼は棚の一つを軽く叩いた。
「ここがお前の持ち場だ、新入り。前にも言った通り、お前の仕事は食材の整理と数量の確認、そして料理人に頼まれたものを渡すことだ。分かったか?」
俺はゆっくりと頷いたが、不安で胸が締め付けられた。彼は俺の躊躇いに気づき、溜息をついた。
「そのうち慣れるさ。とにかく指示に従え。あまりヘマをすると、ただでさえ気の短い連中の忍耐を試すことになるぞ」
俺は作業を始めた。最初は手探りで、何がどこにあるのかも分からなかった。貯蔵室はひどく散らかっており、物資の管理システムを理解するのに時間がかかった。
彼も少しは手伝ってくれたが、すぐに俺一人に任せて出て行ってしまった。少しずつ、俺は自分のリズムを掴んでいった。食材を分類し、数を数え、必要なものを渡す。気づけば、数時間が経過していた。
「夕食の時間だ」
フォックスの声に、俺は我に返った。彼はトレイを渡してきた。
「行くぞ」
俺はそれを受け取り、食堂の奥にあるテーブルまで彼の後をついていった。腹は減っていたが、恐怖が皮膚の下で脈打っている。俺は視線を料理に落とし、周りの誰とも――特にあの『死神』のテーブルの方だけは絶対に見ないようにした。あいつと目が合うのだけは御免だった。
フォックスはしばらく黙々と食べていたが、ふと顔を上げた。
「食べ終わったら、中庭に行くぞ」
俺は眉をひそめ、困惑した。
「中庭? なんでだ?」
彼は疲れ切ったように溜息をついた。
「今夜は喧嘩(ファイト)があるんだ。囚人と看守のための娯楽さ」
食べ物が喉に詰まった。
「喧嘩だって? どういうことだ?」
彼は肩をすくめた。
「単純な話さ。運の悪い野郎を二人選んで、どっちかが倒れるまで殴り合わせる。拒否すれば、看守が両方を痛めつける。結局、殺すか半殺しにされるかだ。地獄へようこそ、新入り」
残酷な現実に吐き気を催し、胃が裏返るようだった。
彼は、とうに慣れっこだと言わんばかりに鼻で笑った。
「俺も最初はそう感じたもんさ。だが二年もしりゃ、何にも驚かなくなる」
俺は固唾を飲み込み、どう答えていいか分からなかった。
「それでお前は? なんで捕まったんだ?」
その質問は、あまりに唐突に投げかけられた。
喉が引きつるような感覚があった。
「恋人への暴行容疑だ……でも、俺はやってない。あの女を愛してたんだ。働いて、勉強もして、いいパートナーであろうとできる限りのことをした……」
俺の声が震えた。
「それなのに、急にあいつの様子がおかしくなったんだ。逮捕された日、あいつは俺の兄貴にすがりついていた。あのクソ兄貴は、理由もなくずっと俺を嫌ってたんだ。俺には訳が分からなかった」
自分の身の上話をすべて彼にぶちまけていたことに気づき、僕は目を丸くした。
かぶりを振って視線を落とすが、急に気まずさが込み上げてくる。
「悪い。こんなに愚痴るつもりはなかったんだ」
彼は気にした様子もなく、肩をすくめた。
「いいさ。誰かに話す必要があったみたいだしな」
そして、彼は片方の眉を上げた。
「兄貴はお前をずっと嫌ってたのか?」
僕は頷いた。
「子供の頃からだよ。理由もなく、絶えず僕を罵倒してきた」
彼はジュースを一口すすると、乾いた笑い声を微かに漏らした。
「その二人がグルだったとは考えないのか?」
僕の体が凍りついた。
「え?」
「自分でも言っただろう。兄貴はずっとお前を嫌っていたし、彼女は急に様子がおかしくなった。お前が逮捕された途端、彼女は兄貴にべったりだ。それを単なる偶然だと思うのは愚かだぜ。お前は嵌められたんだよ」
冷たい刃で心臓を貫かれたかのように、胸がきつく締めつけられた。そんな可能性は考えたこともなかった……だが、筋は通っている。すべてがつじつまが合う。
泣き叫びたい衝動が激しく押し寄せてきたが、僕が感情に飲み込まれる前にフォックスが立ち上がった。
「涙を飲み込め。ヤードへ行く時間だ。辛いのはわかるが、お前は今、もっと酷い場所にいるんだ。生き残りたいなら、腹を括れ。行くぞ」
僕は目を閉じ、深呼吸をして、内側から這い上がってくるパニックを必死に抑え込んだ。自分を哀れんだところで、何ひとつ変わりはしない。
残りの食事を急いで胃に流し込み、トレイをキッチンの返却口に重ねると、彼の後を追った。
彼の言う通りだ。
生き延びたければ、強くならなければならない。
ヤードに到着すると、観覧席にはすでに人だかりができており、興奮の熱気でざわめいていた。彼らの顔に浮かぶ楽しげな表情を見て、胃がねじれるような不快感を覚える。
これほど残酷な光景に、どうしてこれほど熱狂できるのか?
彼は僕を観覧席の方へと引っ張った。
ヤードを取り囲む、打ちっ放しの荒いコンクリートの上に、僕は彼の隣に並んで腰を下ろした。
体はこわばり、手は冷や汗で湿っていた。
彼は無言のまま、読めない表情でじっとヤードを見つめている。僕は完全に場違いな気分だった。まるで壮大なショーの開幕を待つかのように歓声を上げ、談笑する周囲の犯罪者たちの海に、押しつぶされそうだった。
突然、白い囚人服を着た三人の男たちが看守に引きずり出され、ヤードの中央に放り投げられた。彼らは肉塊のようにコンクリートに叩きつけられ、衝撃にうめき声を上げる。群衆からは口笛と笑い声、そして歓喜の叫びが爆発した。
胃の中身が逆流しそうになる。
人の所業ではない。あまりに残酷だった。
僕はフォックスを見た。何らかの反応を期待していたが、彼は瞬きひとつしなかった。
僕は固唾を飲み込み、視線を死刑宣告を受けた者たちへと戻した。彼らの顔には混乱と恐怖が張り付いており、なぜ自分たちがそこにいるのかさえ分かっていないようだった。その中の一人、髪のボサボサな痩せた男が立ち上がろうとした瞬間、看守がメガホンを手に取った。
「野郎ども、今晩は!」その声がヤードに響き渡る。「忘れられない戦いの準備はいいか?」
群衆がどっと沸き、拍手と陰惨な笑い声が入り混じる。胆汁のような嫌悪感が喉元までせり上がってきた。
「ここにいるのは三人の囚人だ!」看守が続ける。「だが、生きて出られるのは一人だけ! 勝者には三大ギャングのいずれかに加入するチャンスが与えられ、他の連中からの『保護』が約束される!」
ヤードが笑い声で揺れた。空気は緊張で張り詰め、嗜虐心と殺意が充満している。看守は効果を狙って一呼吸置いてから、こう付け加えた。
「何が最高かって? こいつらは誰ひとり、喧嘩の仕方を知らねぇってことだ!」
それまで興奮していた群衆は、今や狂乱状態に陥った。熱狂的な口笛と、耳をつんざくような拍手がヤードを埋め尽くす。
僕は歪んだ顔で笑う男たちを見回した。迫りくる暴力を前に、彼らの目は歓喜に輝いている。彼らにとって、これは凶悪犯罪などではない。
ただの娯楽(エンターテインメント)なのだ。
フォックスがわずかに僕の方へ身を乗り出し、低く冷たい声で言った。
「新入り同士の殺し合いの醍醐味は、その『必死さ』にある。命乞いをし、泣き叫び、逃げ惑う。だが最後には……どのみち死ぬんだ」
戦慄が背筋を走り抜けた。肺が呼吸の仕方を忘れてしまったようだ。僕はフォックスをちらりと見たが、彼はまるで天気の話でもしているかのように無関心なままだった。
「さあ……」看守の声が再び響き渡る。「お楽しみの始まりだ!」
彼が腕を振り上げた――その瞬間、一発の銃声が轟いた。
