第262章

坂田和也は、彼女が怒りをぶつけるように去っていく背中を見送りながら、こちらまで苛立ちが伝染した。手を伸ばしてネクタイをぐいと緩める。胸の奥に、むっと詰まった息苦しさだけが溜まっていった。

――前は、こんなふうじゃなかった。

この一年、二人で過ごす時間はたしかに楽しくて、笑ってばかりだったはずなのに。

坂田和也は目を閉じた。

小林絵里は買い物が早い。きっかり一時間ほどで戻ってくると、安町の名産だという品々を彼の前へずらりと並べ、顎を上げて言った。

「ほら、食べて」

坂田和也のこめかみに血管が浮いた。

「小林絵里……わざとだろ?」

小林絵里は妙に真面目な顔で言い返す。

「これが...

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