第287章

バスルームの中。

小林絵里は蛇口をひねった。だが、身体を洗う気などない。

ポケットを探る。やはり、携帯は奪われていた。

室内を見回しても、武器になりそうなものは見当たらない。

思わず、はあ……と息が漏れる。

――今度こそ、逃げられないの?

それから十分。

本田智は待ちくたびれて苛立ち、バスルームへ怒鳴った。

「小林絵里、まだか? いいか、変な真似するなよ。さもないと――」

言い終える前に、扉が開いた。

むわっと立ちのぼった湯気が押し合うように廊下へ溢れ、その奥から、細い影がすっと現れる。

小林絵里だった。

全身が湯気をまとい、髪は濡れて頬に貼りついている。バスローブで...

ログインして続きを読む